>誰が本当の悪人なのか・・・映画『悪人』耽溺サイト

著者

著者>吉田修一

キャスト

清水祐一役 - 妻夫木聡
馬込光代役 - 深津絵里
増尾圭吾役 - 岡田将生
石橋佳乃役 - 満島ひかり
佐野刑事役 - 塩見三省
久保刑事役 - 池内万作
清水依子役 - 余貴美子
清水房枝役 - 樹木希林
気になる役者
     

    誰が本当の悪人なのか・・・映画『悪人』耽溺サイト

     耽溺(たん‐でき)・・・[名]一つのことに夢中になって、他を顧みないこと。多く不健全な遊びにおぼれることにいう。

     悪人とは吉田修一の長編小説を原作として、『フラガール』『69 sixty nine』などの作品で知られる李相日氏が監督した映画で、その「人間の本質へと迫る」内容と刺激的な描写からモントリオール世界映画祭ワールド・コンベンション部門に正式出品され、結果、俳優の深津絵里さんが最優秀女優賞を獲得した作品となっています。妻夫木聡と深津絵里のコンビは月九の作品である「スローダンス」や三谷幸喜監督の傑作映画「ザ・マジックアワー」でも見られますが、お互いの演技をより魅力的な位置へと押し上げるこの二人の名優の共演は、物語や作品を抜きにしてもそれだけで見るだけの価値があるといえるでしょう。実際にモントリオール映画祭で最優秀女優賞を受賞した深津絵里さんは受賞インタビューの際に、「妻夫木さんでなかったら獲れなかった」と発言しておりますが、彼女の演技力自体が非常に優れていたにせよ、妻夫木聡という共演の力や、また監督である李相日氏の演出力などは確かに無視できないものであったのではないかと思われます。

     このモントリオール映画祭では、平成20年の滝田洋二郎監督作品映画である本木雅弘主演の『おくりびと』や、『ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~』と言った素晴らしい作品を数多く選出している映画祭で、選出の基準も非常に厳しく、最優秀女優賞に関しては昭和58年の田中裕子による『天城越え』以来の快挙となり、業界では喜びの悲鳴が上がっておりました。

     自分自身もこの作品を見た時に、深津絵里さんの演技が巧すぎてため息が出たことが記憶にあたらしいわけですが、そんな深津さんの馬込光代に、魅入り、映画内で共感したシーンが多かったと感じた人もかなり多くいらっしゃるのではないでしょうか? 特に一人でケーキを食べるシーンなどは、切なさを表現した絶妙な顔で食べていたので、その顔は反則じゃないかと思うほど切なくなったものです。

     また深津絵里さんだけでなく、妻夫木聡さんの役も光っておりました。彼自身が「この役を絶対やりたい」と自分から言い出していたこともあってか、清水祐一になりきって、悪人顔と善人顔を見事に演じ切っていました。李監督がインタビューで「妻夫木聡が演じるということも含めて、祐一を完全な悪人としては捉えることは難しい」と言うふうに語っておりますが、本当に、妻夫木さんこそがこの映画にぴったりの俳優だったのは間違いないだろうと今では思えます。

     脇役も、樹木希林さんが演じているおばあちゃん役と、柄本さんの演技が素晴らしく映画をさらに盛り上げており、柄本さんのセリフである「あんた、大切な人はおるね? その人の幸せな様子を思うだけで、自分までうれしくなってくるような人は」という場面に関しては、非常に印象深く、作品全般を通じて一つのテーマとしてあげられる台詞になるのではないでしょうか?

     映画「悪人」は『誰が本当の悪人なのか』というのがキャッチコピーに入っているとおり、人の本質を「善と悪」と捉え、過激な性描写などもありながらも、非常に純粋かつ真摯に「誰が本当の悪人なのか?」について考えさせられる映画になっていますので、これから見る方は是非、それを考えながら見て考えてほしい作品です。このサイトではそんな悪人について原作とともに出演俳優などの情報を紹介していきます。

    なぜ、殺したのか。 なぜ、愛したのか。

    あんた、大切な人はおるね?

    その人の幸せな様子を思うだけで、
    自分までうれしくなってくるような人は。

    今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎる。
    自分には失うものがないち思い込んで、
    それで強くなった気になっとう。
    だけんやろ、自分が余裕のある人間て思いくさって、
    失ったり、欲しがったりする人間を、
    馬鹿にした目で眺めとう。

    そうじゃないとよ。
    それじゃ人間は駄目とよ。

    あらすじ

     長崎の外れのとある漁村で生まれ育った、土木作業員の清水祐一は、恋人や友人を作ることも無く、祖父母の世話をしながら暮らしていた。趣味は車だけで、何が楽しくて生きているのかわからない青年、清水祐一と出会うことになる佐賀の紳士服量販店に勤める馬込光代は、虚無感にさいなまれる彼と同じく妹と2人で暮らすアパートと職場の往復だけの退屈な毎日を送っていた。

     本気で誰かに出会いたい。本気になれる関係が欲しいと願っていた孤独な二つの魂は偶然にして出会い、刹那的な愛に焼かれその身を焦がしていく。しかし、そんな情熱的な関係とは裏腹に、祐一には光代に告げていないたった一つの秘密があったのだった。そう、実は彼は、連日ニュースを賑わせていた殺人事件の犯人だったのだ。

     その事実を知った光代は、「もっと早く出会っていれば良かった」と漏らす。現実問題どうすればいいのかは明確にわかっていたものの、感情はそんな思考とは裏腹に動き始める。祐一は自首しようとするが、光代はそれを止め、二人は共に絶望的な逃避行へと向かうことになる。それは殺人犯との許されぬ愛であるはずだが、光代は生まれて初めて人を愛する喜びに満たされいたのだった。彼等は地の果てとも思えるような灯台へと逃げこんで、一時的には幸せなひとときを迎えていたものの、その逃避行は、被害者の家族や加害者の家族、はたまた様々な人物の人生を巻き込んで渦をまいていくこととなる。何故、祐一は人を殺したのだろうか。何故、光代は殺人者を愛してしまったのだろうか。苦しみの中で葛藤する被害者の父はどうなるのか。絶望の淵から真っ逆さまに落ちていく人間たちが、善悪の葛藤と、善と悪の本質を否が応でも考えさせられる状況に飲み込まれ、もがきながらも、その末に一つの問いが生まれる。いったい誰が本当の「悪人」なのか? その問いの答えが導き出された時、物語は、衝撃と感動のクライマックスへと突き進んでいく。

    キャスト

    清水祐一 -(妻夫木聡)

     主人公で、土木解体作業員に従事。光代と逃亡することになる。

    馬込光代 -(深津絵里)

     紳士服店の販売員として働いていた。後に、祐一と逃亡することになる。

    増尾圭吾 -(岡田将生)

     裕福で自由気ままな大学生。

    石橋佳乃 -(満島ひかり)

     後に死体で発見されることとなる、保険外交員。

    佐野刑事 -(塩見三省)

     福岡県警に勤務する刑事。

    久保刑事 -(池内万作)

     福岡県警に勤務する刑事。

    矢島憲夫 -(光石研)

     祐一が勤める解体業を経営している彼の大叔父。

    清水依子 -(余貴美子)

     祐一を棄てて洋菓子店を経営している勝治、房枝の次女であり祐一の元母。

    清水勝治 -(井川比佐志)

     寝たきりになっている祐一の祖父。

    堤下 -(松尾スズキ)

     房枝を騙すこととなる悪徳商法の販売員。

    馬込珠代 -(山田キヌヲ)

     光代の双子の妹。商工会議所事務員に所属している。

    谷元沙里 -(韓英恵)

     佳乃の同僚である保険外交員。

    安達眞子 -(中村絢香)

     佳乃の同僚である保険外交員。

    石橋里子 -(宮崎美子)

     亡くなった佳乃の母。

    鶴田公紀 -(永山絢斗)

     増尾の同級生である大学生。

    清水房枝 -(樹木希林)

     堤下に騙されることとなる祐一の祖母。

    石橋佳男 -(柄本明)

     理容店を経営している佳乃の父。亡くなった佳乃のことで動く。

    スタッフ

    監督 - 李相日

    製作 - 島谷能成、服部洋、町田智子、北川直樹、宮路敬久、堀義貴、畠中達郎、喜多埜裕明、大宮敏靖、宇留間和基

    プロデューサー - 仁平知世、川村元気

    エグゼクティブプロデューサー - 市川南、塚田泰浩

    ラインプロデューサー - 鈴木嘉弘

    原作 - 吉田修一

    脚本 - 吉田修一、李相日

    撮影 - 笠松則通

    美術 - 杉本亮

    美術監督 -種田陽平

    編集 - 今井剛

    音楽 -久石譲

    演奏 - 東京ニューシティ管弦楽団

    音楽プロデューサー - 岩瀬政雄、杉田寿宏

    スクリプター - 松澤一美

    ヘアメイク - 豊川京子

    衣裳デザイン - 小川久美子

    照明 - 岩下和裕

    装飾 - 田口貴久

    録音 - 白取貢

    助監督 - 久万真路

    制作プロダクション - 東宝映像制作部

    製作 - 映画『悪人』製作委員会(東宝、電通、朝日新聞社、ソニー・ミュージックエンタテインメント、日本出版販売、ホリプロ、アミューズ、Yahoo! JAPAN、TSUTAYAグループ、朝日新聞出版)

    配給 -東宝

    主題歌

    福原美穂『Your Story』

    出品

    平成22年10月10日-13日開催の『釜山国際映画祭』アジアンフィルムマーケット出品

    平成22年11月3日-10日にロサンゼルス開催『アメリカン・フィルム・マーケット』出品

    受賞

    第34回モントリオール世界映画祭:最優秀女優賞

    第34回山路ふみ子映画賞:映画賞、新人女優賞

    第23回日刊スポーツ映画大賞:作品賞、主演男優賞、主演女優賞

    第35回報知映画賞:作品賞、主演女優賞、助演男優賞(柄本明)

    第84回キネマ旬報ベスト10:日本映画ベスト・ワン、日本映画監督賞、日本映画脚本賞、助演男優賞

    第65回毎日映画コンクール:日本映画大賞

    第53回ブルーリボン賞:主演男優賞

    第34回日本アカデミー賞:最優秀主演男優賞、最優秀主演女優賞、最優秀助演男優賞(柄本明)、最優秀助演女優賞(樹木希林)、最優秀音楽賞

    映画の感想

     兎にも角にも暗い映画です。どこにも明るさのかけらがないので、もしもそう言った作品に耐性が無いのであれば、若干堪えるかもしれませんし、人によっては主人公たちに全く感情移入できないという賛否両論あるような形の作品だとも言えます。特に原作を読んでおらず、映画から入った人にとっては若干細部の面で納得が出来ない点もあるかもしれませんが、極力、原作のテーマ性や物語を損なわないように上手く作られている作品だと思えます。元々、村上龍の原作を映画化した、李相日監督だからこそ出来たことだと思うのですが、この非常に難しい(役者、脚本、監督共に)作品をよくぞここまでの完成度で世に送り出せたなといった感じです。特に映画に対して、健全さや、勧善懲悪の単純明快さしか求めないのであれば、この映画は見る必要がないものだと思いますが、もしも『母なる証明』『告白』『渇き。』といった作品を見て、心にズシンと重くのしかかる作品などが好きになった映画ファンなら是非、一度は見て欲しいと思います。また、比較的この映画が語られる時に深津絵里さんと妻夫木聡さんの演技力について語られることが非常に多いわけですが、個人的には殺された佳乃の父である石橋佳男を演じた柄本明の演技が凄まじいと感じました。もしも、この役に彼でなく、他の役者を据えていたら、おそらく全く別の映画と感じられる位と言い切れるほどで、特に悪人に関しては、加害者とその恋人からの立場と、被害者とその遺族の立場が二項対立して描かれる作品ですので、どんな脇役だろうと徹底的に役に落とし込み、独自の世界観をしっかりと練り上げる柄本明抜きでは、この映画はずいぶんと陳腐なラブストーリーへとなりさがっていたかと思われます。そんな脇役にも注目して見たい作品です。